暗躍する大国-サウジアラビア-

シリアで絶大な影響力を誇るサウジアラビア。サウジアラビアを語らずして、シリアの情勢を正しく理解することは難しい。とは言うものの、僕もサウジアラビアの詳しい(シリアでの)立ち位置を把握出来ていません。何となーく、反体制派に味方しており、中でも外国人勢力の強力な後ろ盾であり、武器の供給を行っているぐらいの知識かな。暗躍する大国と題するほどのネタはありませんが、先日、見かけたある記事が気になったので、ちょっと紹介したいと思います。

http://www.reuters.com/article/2013/08/07/us-syria-crisis-saudi-russia-idUSBRE9760OQ20130807

「Saudi offers Russia deal to scale back Assad support」

欧州の外交官からのソースになります。ロシアとサウジアラビアの会談を調整したのはサウジアラビアの情報機関のトップであるBandar bin Sultan氏。会談は、先週に設けられたと記事にありますが、ロイターから打電された日付が8月7日なので、現時点では先々週に設けられたことになります。ロシアはアサド政権を支える重要な立役者です。サウジアラビアはその立役者の切り崩しを狙い、今回の会談へと漕ぎ着けました。

サウジアラビアの甘い囁きは大国ロシアのハートを射止めたのでしょうか。ロシアがシリアから手を引くことを条件にサウジアラビアが提示した内容は二点です。150億ドル分の兵器をロシアから購入する。中東で産出される天然ガスがロシアの権益を侵さないように配慮する。その代償としてアサド政権への支援を緩める。国連安保理決議の採択に拒否権を行使しない。

サウジアラビアに精通しているレバノンの政治家によれば、Bandar氏とプーチン大統領との会談は4時間ほど行われ、会談終了後にはサウジアラビア側の交渉団は何かしらの成果を得られたかのように息巻いていたと語っています。プーチン大統領のスポークスマンであるDmitry Peskov氏は会談内容が直ちに反映されることはないと語り、サウジアラビアの外務省幹部も同様の発言を行っています。プーチン大統領はBandar氏の提案を二つ返事で引き受けているわけではないようです。その理由として、サウジアラビアがシリアの安定に貢献できるかどうかの確証が得られない、つまりは懐疑的ということです。ここで言う「シリアの安定」とはアサド政権崩壊後に訪れるシリアの行く末です。前提条件としてロシアに害を成さない政権構築が必須となります。

ロシアのシリアへの姿勢には多少の変化も見られています。例えば国連による化学兵器使用によるシリアへの調査団の派遣。ロシアの強い圧力によりアサド政権は彼らの現地調査団の受け入れに理解を示しました。これにはサウジアラビアの影響もあるとかないとか。Bandar氏のロシア側との連携はエネルギー、軍事、経済にまで及びます。水と油の関係から蜜月が訪れたことを暗示します。レバノンのヒズボラ、イランの革命防衛隊、イラクのシーア派組織、直接的にシリアの内戦に関与している3者とは違い、ロシアはあくまで軍事的な支援(武器の売却)を要として暗躍しています。

サウジアラビアとロシアはシリアでの革命以前はウィンウィンの関係でした。2008年、サウジアラビアとロシアは150両の戦車(T-90)、100機の軍用ヘリ(Mi-17、Mi-35)、戦闘車両(BMP-3)の受注契約にサインしています。しかし、この契約は何年間も凍結されたままです。仮にこの契約が履行に移されれば、それはシリアとロシアとサウジアラビアの3者の関係に何かしらの変化が見られている、その兆しだと思われます。

http://world.time.com/2013/08/09/the-failed-saudi-russian-talks-desperate-diplomacy-as-syria-implodes/

8月9日、ロシアはサウジアラビアの提案を拒絶した模様です。カーネギー中東センターのシリア人の学者Yezid Sayigh氏は今回のサウジアラビアの提案を一笑に付しました。ロシアは単に軍需産業で利益を上げるためにシリアのアサド政権を支えているわけではない。もちろん天然ガスのヨーロッパ市場での中東の存在を怖れているわけでもない。ロシアが最も懸念すべきことは、アメリカと同様に、シリアのアサド政権が崩壊した後に生じる権力の空白にある。そういった危険な状態に陥らないための防波堤の役割としてまだアサド政権は機能しているとロシアは見ている。

ロシアはリビア内戦での一方的なNATOによる空爆に不信感を抱いています。裏切られたという思いがある。外部の圧力によるシリアへの干渉には否定的です。特にシリアには地中海に面したロシアの軍港があります。またロシアが仮にシリアから手を引いたとしても、大きな変化は望めないだろうという意見もあります。イランが深くシリアに関与していることから決してロシアだけがシリアの行く末を担う救世主のような存在ではないからです。

欧米はアサド政権への圧力を強める必要性を認めながらも、反体制派を武装化するなどの大胆な行動には踏み出せずにいます。ロシアと同様、権力の空白を怖れているからです。マーティンデンプシー統合参謀本部議長の言葉を引用すれば、その脅威は明らかです。「我々は過去十年から学んだ。健全な国家を保持するために必要なことは軍事的なバランスを熟慮することなく変更することだけでは不十分である。堅固な反体制派が不在している中で政権が崩壊すれば、過激な思想を抱いた原理主義勢力を活気づけ、我々が求める化学兵器の適切な管理ですら暴発しかねない」。

皮肉なことにシリアの内戦に関して、イランを除けば、全ての海外勢が手をこまねいています。彼ら(海外勢)はこれ以上、深くシリアに関与することを深く望んでいません。気を揉みながら、こじつけられたような形だけの解決策を提示しているだけで、近いうちにシリアの内戦が収束するという観測には期待はできません。記事の文末には駐シリア大使を務めたRyan Crocker氏がシリア内戦を山火事と比較してこう述べています。「山火事を鎮火することはできない。燃え尽きるまで待つしかない。それはシリアの状況によく似ている。我々は戦争を止めることはできない。我々に出来ること、すべきことは、戦果がさらに拡大しないように防ぐことである」。長引く内戦の結果に備えることしかできないのが今のシリアであり、それは諸外国の限界でもあります。

サウジアラビアとシリアとの関係についてはまったく触れられていませんでした。対シリアと中東、欧米諸国との関係を分かり易く説明している記事があれば本当に僕としてもうれしいんだけれど。分からんことだらけ。ミクロにしてもマクロにしても。