クサイル攻防戦

先日、アブ・サッカルの話をしました。彼の蛮行は多くの非難を浴びました。彼自身はその後のインタビューで、「法の裁きを受ける覚悟はある。ただし、アサドと彼に従うシャッビーハも同じような裁きを受けなければならない」、「このままシリアで流血が続ければ、私のような人間はいくらでも現れるだろう」と述べています。その彼の部隊が展開している場所がホムス県のクサイルという町です。3日ほど前からクサイルでは双方による陣地の奪い合いが続いています。

双方とは体制派と反体制派です。体制派は政府軍とシャッビーハ、反体制派は自由シリア軍。それとクサイルでは体制派を後押しする強力な部隊も加わっています。ヒズボラです。ヒズボラがシリアの内戦に関与していることは以前から報道されてきましたが、小規模なものでした。しかし、クサイルが自由シリア軍の手に落ちて以降、シリア、レバノン領内のシーア派の村に迫撃砲が着弾するようになりました。死傷者も出る事態に危機感を募らせたヒズボラは(イスラエルの空爆にも神経を尖らせていたこともあり)盟友であるアサド政権を徹底的に支持することを誓います。それが先月のヒズボラ指導者のナスラッラーの演説になります。そして彼の演説は今回のクサイル攻防戦へと繋がります。クサイルを自由シリア軍から奪還すれば、少なくとも国境沿いのシーア派の村が攻撃にさらされる心配はなくなります。同時にクサイルは首都ダマスカスとアラウィ派が拠点とする地中海沿いの地域一帯を結ぶ重要な町です。ここを潰せば、反体制派への物資の補給や人員の補充を厳しくなり、政府側にとっても今後の戦況を有利に運べるようになるのは確実です。両者の思惑が合致し、クサイルは火の海に包まれました。

自由シリア軍が政府軍からクサイルを奪還したのが2012年2月になります。以降は政府軍がヒズボラと手を取り合って、町周辺の村々を徐々に制圧していきました。しかし、自由シリア軍は細胞分裂のように枝分かれした反体制派組織を一つにまとめあげ、「ファルーク旅団」という屈強な部隊を築き上げました。ホムス県の大半が政府軍に制圧されていく中でも、クサイルは迫撃砲や空爆の脅威にさらされながらも、必死の抵抗を続けてきました。レバノンから流れ込む武器や弾薬、そしてレバノン領内で暮らすスンニ派の志願兵が、反体制派の砦としてクサイルを支えてきました。しかし、既に3日間続いている今回の攻防戦は最終的に政府側に軍配が上がるのではと僕は思います。市民記者が発信する戦闘の映像は間断なく続く銃声と地面を揺るがすほどの迫撃砲と空爆の重い響き。砂煙が列柱のように空高く突き抜ける光景には度肝を抜かされます。クサイルにはまだ2万近い市民が取り残されていると一部では報道されています。仮に防空壕のようなシェルターが存在したとしても、今のクサイルでは気休めにもならないでしょう。

クサイルに限らず、焦土と化した町はシリアには数限りなくあります。政府側は反体制派の町を奪還したと誇らしげに語りますが、奪還ではなく単なる破壊行為です。ひたすら破壊を繰り返し、町そのものを消してしまう。住居を、市場を、学校を、病院を、電気や水道などのインフラ施設を、爆撃する。ときにはブルドーザーまで持ち込んで更地にする。町の機能は失われ、人間どころか犬猫一匹住めないような状態にして「はい!制圧!」と平気で口にする。非常に残忍で卑劣な手口ですが、そうすることでしか持ちこたえられないほどアサド政権は窮地に立たされているのだと思います。それでもダメだということで、ロシアからの武器供与があり、ヒズボラの参戦があり、イランからの革命防衛隊の派遣、北朝鮮の軍人が戦闘機に乗って爆弾を落としている(シリア人だと離反する可能性が高いため)なんて噂も流れています。お隣のイラクも宗派間の抗争でテロが続いており、シリアの混迷は中東全域を狂わしています。

シリアのニュースを毎日のように目で追っていると、周辺国の事情にも多少ですが詳しくなります。僕はジャーナリストと名乗っているんですが、多角的に物事を見られないという欠陥を抱えています。取材対象国以外にはまったく見向きもしない。視野を広くあらゆる方面から物事を検討できない。だからシリアに手を出した当初はヒズボラって?イランの革命防衛隊って?シリアとロシアとの関係?イスラエル?宗派の違い?と・・・まあ「???」だらけでした。そもそもアラブの春がシリアに飛び火しなければ中東になんて足を運ぶつもりはなかったから。そんな僕でもシリア情勢を見ていくと、避けては通れない周辺国との関係が見えてきます。もちろん、シリアで起きていることは悲惨なことですし、早く紛争が終わって、革命以前の牧歌的で長閑な国家に戻ってほしいと思います。それを踏まえてですが、シリア、調べていけばいくほど本当に興味をそそられます。さっさと現地に飛びたい気持ちもありますが、前回のアレッポでの惨めな自分を思い出して、しばらくは静観して時を待つべしといった感じです。余談でした。

参考サイト

http://blog.foreignpolicy.com/posts/2013/05/17/syria_s_lung_eating_rebel_explains_himself

http://www.nytimes.com/2013/05/21/world/middleeast/syria-developments.html?pagewanted=1&_r=3

http://www.csmonitor.com/World/Middle-East/2013/0520/Syrian-Army-Hezbollah-bear-down-on-rebels-in-strategic-Qusayr

http://www.washingtonpost.com/world/middle_east/syrian-troops-hezbollah-fighters-press-attacks-near-lebanese-border/2013/05/20/4354dc52-c161-11e2-8bd8-2788030e6b44_story_1.html

http://www.latimes.com/news/nationworld/world/middleeast/la-fg-syria-qusair-20130521,0,3657385.story