レバント征服戦線を標的に-アサド政権と最も敵対する組織-

これは以前からずーと指摘されていることです。アメリカはイスラム国と平行してレバント征服戦線(旧ヌスラ戦線)を標的にしています。上位に位置する指導者をピンポイントで殺害するほどの執着です。これには現地のシリア人からも反感を買っています。なぜならレバント征服戦線(JFA)はアサド政権と最も果敢に戦果を交えている反体制派勢力だからです。その解説になります。

https://www.washingtonpost.com/world/national-security/obama-directs-pentagon-to-target-al-qaeda-affiliate-in-syria-one-of-the-most-formidable-forces-fighting-assad/2016/11/10/cf69839a-a51b-11e6-8042-f4d111c862d1_story.html

オバマ大統領はペンタゴンに強い要求を突き付けている。アルカイダと繋がりがあると指摘されるヌスラ戦線の指導者を殺害するようにと。ヌスラ戦線は長年に渡り、アサド政権と敵対してきた勢力である。にもかかわらず、執拗に標的にするのはなぜなのか。

オバマ大統領の高官はこう答えている。ヌスラ戦線は今でこそシリア国内で反体制派勢力の一員としてアサド政権と戦火を交えているが、いずれは国内から国外、ヨーロッパへとテロの矛先が向かうだろう。この発言から察するに、オバマ政権はアサド大統領の退陣を望むよりもヌスラ戦線によるグローバルテロリズムを警戒していることがうかがえる。

トランプはオバマ政権の政策を引き継ぐのか。引き継ぐどころかより一層、JFAへの攻撃を強めるように思える。ロシアと直接手を組んでの軍事作戦も視野に入れている。そもそもヌスラ戦線からJFAへの名称の変更により、アルカイダとは手を切ったとJFAは公式に宣言している。しかし、アルカイダと関わりがあろうがなかろうがアメリカはJFAへの敵意は崩していない。

確かにJFAに加わる戦闘員にはアルカイダ出身者のものも数多く紛れている。彼らがシリア国内ではなく、国外のテロを企てる要素は否定できない。当初はペンタゴンはイスラム国から離れた政策には消極的ではあったが、オバマ政権の強い要望により、ヌスラ戦線はイスラム国同様に脅威として認識された。

9・11以降、分断された世界で、パキスタンやアフガニスタンからアルカイダの指導者がヌスラ戦線に加わり、シリア北部で強力なネットワークを構築している。オバマ大統領は何度なくそのことを口にした。

テロ対策に関する大統領の首席アドバイザーであるLisa Monaco氏は言う。「我々はアルカイダが我々の同盟国、我々の利益、我々自身を攻撃することは許しません。シリアでの彼らへのスタンスがそれです。我々は安全地帯をシリアで構築しようと画策するテロリストへは攻撃を続けるでしょう」。

シリアで勢力範囲を拡大するヌスラ戦線に対して、アメリカは武装した無人機や情報収集を控えめに行ってきた。なぜ控えめなのかと言えば、ロシアがシリアに参戦したことにより空域での大国同士の衝突を避けるためでもあった。アメリカとロシアの関係はヌスラ戦線を攻撃することでは一致したものの、アサド政権と共闘して無差別攻撃をし、包囲されたアレッポへの支援物資を妨げるなど、最終的には両者の協力体制は崩壊した。ロシアはアメリカがヌスラ戦線が穏健派勢力と共に戦っていることを非難し、アメリカはロシアがアレッポで戦争犯罪を行っていると糾弾した。

アメリカは10月に入ると、無人機によりヌスラ戦線の幹部を4人殺害した。現在のところ、ロシアはアメリカのヌスラ戦線への攻撃を黙認している。むしろ、アサド政権の最大の脅威とみなされるヌスラ戦線を駆逐することはロシアにとっても好ましいという側面もある。さらに攻撃を実行に移す際には、空域でのトラブルを避けるためにロシアへの事前通告を行っている。

アメリカのヌスラ戦線への攻撃はイエメン、ソマリア、パキスタンで行われているキャンペーンに類似している。ある標的をピンポイントで狙うドローン攻撃である。またイスラム国と同等の規模での作戦も考えられている。指導者を殺害しながら、その下で戦う戦闘員にも標準を合わせる。しかし、それは行き過ぎだとの判断もある。ヌスラ戦線の構成員はシリア人であり、彼らはアサド政権の打倒を目指しているのであり、決して西側諸国に牙を向けていないからである。豊富な武器と資金を所持しているヌスラ戦線から直接の恨みを買うことは逆に西側への脅威となる。

ヌスラ戦線の指導者殺害にはCIAが支援する穏健な反体制派組織への警句でもある。ヌスラ戦線から離れろと。しかし、アサド政権がロシアやイランに支えられて強靭化している2015年頃から穏健な反体制派だけでは力不足であり、ヌスラ戦線と共闘することでアサド政権と対等に戦える状態を維持している。

オバマ政権の高官は述べている。「アサド政権が崩壊しても、我々はヌスラ戦線がその後継者になることは認めていない。彼らはアルカイダだ」。

イスラム国とヌスラ戦線への軍事的な圧力を与え続ければ、やがて穏健な反体制派がシリアで最も支配的な地位に登り詰めるだろう。しかし、大統領がトランプになったことで事態は変わるのではないかとアメリカの諜報機関は考えている。トランプは穏健な反体制派への武器の供与には懐疑的である。

またペンタゴン内部でもヌスラ戦線への攻撃が有効か否かで意見が対立している。イスラム国と戦うために空域を使用するのは必要なことではあるが、ロシアが戦闘機を飛ばしている以上、ヌスラ戦線にまで気を配ることは難しいという現実的な問題もある。そのため、イスラム国の打倒は先決ではあるが、ヌスラ戦線に関しては現状維持を念頭に、西側諸国への脅威にならない程度に抑えることが重要ではないかとホワイトハウスでは考えられつつある。ヌスラ戦線の指導者の殺害は継続しながらも、ヌスラ戦線に共闘する穏健派には目をつむる政策に移行しつつある。

「今から5年後に我々が目を覚ましたら、イスラム国は全滅しているが、アルカイダが現在のパキスタンのワジリスタン(部族地域)のようにシリアの北部に聖域を形作っている。それは我々にとっては問題だ」。アメリカの高官の言葉である。

今回のワシントンポストの記事、重要だと僕は思います。記事が長いし、端折ったり、勝手な解釈で意訳している部分も多々あるので、原文を推奨します。ただ内容自体は大まかで間違っていないかと思います。ヌスラ戦線と表記している箇所が多いですが、現在はレバント征服戦線(JFS)です。アメリカのお偉いさんの意見を取り入れているし、実際はJFSを攻撃しているのはアメリカなので仕方がないですが、日本では絶対に目にしない記事です。ただシリアの現状を理解する上で重要ですし、今後のアメリカのシリアへのスタンスにも関わってくる問題かなあと思います。