シリアのおさらい

シリア情勢は複雑だと一般には言われています。確かにその通りなのですが、民衆蜂起から現在に至るまで、時系列で物事を眺めていくと、それほど道に迷うことなく、すんなりと理解できます。ただ、2011年3月から現在までのシリアでのニュースを拾い集めるとなると、膨大な労力と時間が費やされます。仮に今、2016年9月、「シリアを勉強しよう!」と思った方がいるとしたら、それは大変な作業になります。2012年3月からシリア情勢を眺め続けている僕でも、何とか追いつけている状態です。息切れしてます。こんな記事を見かけたので、補足を交えて紹介したいと思います。

http://www.nytimes.com/2016/09/19/world/middleeast/syria-civil-war-bashar-al-assad-refugees-islamic-state.html

1 シリアで行われている戦争とは何か

今行われている戦争は4つの層で構成されています。まず最も核となるのがアサド政権と反体制派です。さらに両者はシリア人と外国人で組織されています。両者の基本的な意見の相違はアサド大統領を政権から追い出すか、残留させるかです。

二つ目がクルド人です。クルド人は革命初期というより内戦に陥り、シリアが混沌とする中で勢力を拡大させていきました。さらに小さな国家、憲法、司法、行政などを整備した連邦制を宣言しています。このクルド人を支えているのがアメリカになります。アサド政権との戦闘は限定的で、主に反体制派、イスラム国と戦火を交わしています。そして、クルド人の勢力拡大を懸念しているトルコが先月、軍事介入に乗り出しました。

三つ目がイスラム国です。内戦に陥り、国家が破綻した中で徐々に頭角を現してきました。2014年からイラクとシリアで勢力範囲を拡大し、カリフ制を宣言しています。表向きは彼らを支援する国家や組織はありませんが、裏ではいろいろと囁かれています。構成員はシリア人、イラク人の他、外国人が多数含まれています。

四つ目が国家です。外国からの勢力です。アサド政権にはロシア、イラン、レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派民兵、反体制派にはアメリカ(諜報機関)、トルコ、サウジアラビア、カタールなどの湾岸諸国、クルド人にはアメリカを含めた有志連合、ロシアも一部で協力関係にあります。

2 どうして戦争は起きたのか

中東で吹き荒れたアラブの春に触発される形で、シリアでも2011年初頭からアサド政権に対する平和的なデモが発生しました。アサド政権はデモを鎮圧するため暴力で対抗しました。それに不満を抱いた民衆が武器を手に取り、反体制派(自由シリア軍)を結成しました。民衆の他にも政府軍からの離反兵も多数含まれています。

しかし、それだけではシリアの国家が破綻した理由にはなりません。アサド大統領はアラウィー派であり少数派の勢力です。しかし、軍や治安組織には彼を支持する盤石なお仲間が配置されています。一方、民衆の多数はスンニ派です。内戦が激化し、国家が破綻すれば、暴力は一段と加速します。その中で、宗派対立が浮き彫りになりました。さらに不安定な状態が何年も続いていた隣国イラクから過激派がシリアで活動を始めました。そしてイエメンで見られるようにイランとサウジアラビアの対立がシリアにも波及しています。

3 どの国がシリアに関わり、それはなぜなのか

シリアに関わっている主要な国家は5つあります。まずはイラン。アサド政権を支持しています。理由はイスラエルの対峙するレバノン拠点のヒズボラへの支援がシリアを失うと支障が生じるからです。そこにサウジアラビアが危機感を覚えました。反体制派を支持し、アサド政権を追い出すことで、サウジアラビアはイランの中東での影響力を除去し、サウジアラビアにとって都合のよい政権の樹立を目指しています。最近のアメリカのイランに対する軟化政策にも不安を抱いています。

アメリカは当初は反体制派の武器支援にとどめていましたが、イスラム国がシリアで台頭したことにより軍事介入に踏み切りました。イスラム国を駆逐するためにクルド人と共に一部特殊部隊を展開させています。

トルコは反体制派とイスラム国の隠れ蓑として存在していました。しかし、イスラム国がトルコ国内でテロを起こすようになり、イスラム国との関係を打ち切り、その打倒に動きました。しかし、これは表面的な理由であり、実際はシリアで領土を拡大するクルド人に焦りを覚えたトルコがシリアへの軍事介入に踏み切りました。

ロシアはアサド政権に武器を提供し、国連安保理では制裁決議の拒否権発動などで間接的な支援を行ってきました。しかし、アサド政権が徐々に窮地に追いやられ、ロシアの海軍基地があるタルトゥースへの反体制派の猛攻が迫ると、軍事介入に乗り出しました。反体制派、イスラム国の中には多数のチェチェン人等々、ロシア国内でテロリスト指定されている人々が紛れています。彼らがロシアに脅威を与えないためにも、軍事介入を加速させています。

4 なぜこれほど悲惨な内戦に陥ったのか

老若男女問わず、30万人以上が殺害されています。その首謀者はアサド政権です。しかし、なぜこれほど無差別に国民を殺戮するのか。理由はアサド政権は少数派のアラウィー派で構成されており、まともに戦えば負ける可能性が高いからです。そのため、恐怖によって、民衆を服従させようと化学兵器も含めた無差別殺傷兵器を戦闘員、民間人問わず使用を続けてきました。

しかし、恐怖による支配は成功することなく、反体制派との戦闘は激化しました。両者の勝敗が決まることなく、争いは何年も続き、その中で多数の人々が命を落としました。そこに外国からの軍事介入が開始されましたが、一方はアサド政権、一方は反体制派、一方はクルド人と国家間でも一致団結することなく、内戦の終結は一段と遠のき、行き詰まりました。

力の真空状態は有象無象の集団を生み出し、治安は悪化しました。戦争犯罪と認定されてもおかしくない虐殺も誰も咎めるものがいないため、煮えたぎる憎悪がそのまま殺戮に繋がりました。

5 戦争は宗教によってどのように分断されたのか

シリアの戦争の根本的な要因に宗教は深く関係していません。しかし、長引く内戦により宗派対立が噴出し、イスラム国のような過激な思想の勢力も現れました。

第一次世界大戦によりオスマン帝国から切り離されたシリアはフランスの委任統治領になりました。フランスはシリアを統治するには力不足と思われる勢力に肩入れしました。それがアラウィー派になります。1946年にフランスはシリアから撤退し、シリア共和国として独立しました。権力争いからクーデターが頻繁に起こり、1970年を最後にシリアでは独裁政権が誕生します。それがバッシャール・アサドの父、ハーフィズ・アサド大統領です。

少数派のアラウィー派の権力者の誕生は自然と同宗派の優遇政策に傾きます。多数派のスンニ派、その他、クルド人は虐げられます。常にアラウィー派は多数派の影に怯えているため、権力は強化され、治安組織、秘密警察で身の安全を確保しました。それでも反抗的な組織や人物には暴力で対抗しました。

シリア人の誰もが宗派を基礎にしています。しかし、シリアでの民衆蜂起は当初は宗派とはまったく違ったところから出発しています。むしろ宗派間の抗争に火種が移らないように警戒していました。しかし、ある宗派が別の宗派を殺害すれば、被害者は加害者の宗派に憎悪を抱き、警戒します。その繰り返しが、宗派間の血みどろの争いに発展しました。さらに宗派間の抗争は周辺諸国を巻き込み、イラン、イラク、レバノン、サウジアラビアなどのシリア内戦への関与につながりました。

6 イスラム国はどこから来たのか

イスラム国のルーツは二つの戦争から導き出されます。一つが1979年のソ連のアフガニスタン侵攻、もう一つが2003年のアメリカのイラク侵攻です。前者はアルカイダの結成につながり、後者はアルカイダのジハードブームに火をつけました。

ザルカウィは1990年代はアフガニスタンで、2000年代はイラクで戦いました。アルカイダのイラクでの活動を任されていた彼ですが、政策や思想の面で、アルカイダとは一線を画していました。それが今のイラク、シリアでのイスラム国の源流です。

2006年にザルカウィは殺害されますが、シーア派政権のイラクで虐げられたスンニ派の軍人や治安組織が彼の過激な思想を受け継ぎます。イラクのイスラム国として誕生した組織は混沌としたシリアにまで勢力を拡大しました。イラクとシリアのアルカイダを自任したイスラム国ですが、最終的には決別して、イスラム国単体として活動を始めます。現在はシリアとイラクで勢力範囲を縮小しつつあります。

7 なぜ難民問題は深刻化したのか

500万人近い難民をシリアでは生み出しました。難民である彼らはもちろん、周辺諸国、さらにはヨーロッパにまで問題は広がっています。難民の中には病気や飢えに苦しんでいます。隣国に逃れても、働ける環境がなく、生活することが困難です。子供たちの教育にも影響しています。

ヨルダン、レバノン、トルコが多数のシリア人難民を抱えています。しかし、十分な稼ぎを得られないため家族を養えず、もっと良い環境へと命がけの旅をしています。彼らが向かう先がヨーロッパになります。しかし、難民の膨大な数にヨーロッパも引き受けには消極的です。

長い記事ですが、大雑把なシリアでの問題が理解できるかと思います。それで、僕はシリアを長く取材してきました。ただ、アラビア語堪能な中東の研究者の方と比べれば、知識の量なんてたいしたことはありません。でも一つだけ、僕でも語れることは現場で感じたことです。

http://www.chiheisen.net/

23日、今週の金曜日になりますが、報告会をします。主催は「地平線会議」です。主に探検家、冒険家、登山家の方、それも少し変わった、普通の人から見ると、「なんでこんなことするの?」、というような方々が月に一度、それぞれのテーマで報告会をしています。僕は話すことが苦手ですが、主催者の方の一人が進行役を務めてくれるので、現地の写真や映像を使いながら、僕の思うことを伝えられればと思います。気軽に立ち寄っていただければ幸いです。参加費は500円かかります。