停戦合意-ダマスカス郊外からのレポート-

「まさか死ぬわけがない」。駆け出しの頃、こんな軽い気持ちで取材を行っていました。しかし、何度か危険な経験をすることで考え方も変わりました。現在は「死ぬかもしれない」というスタンスで取材を行っています。ただシリアの現状は僕の手には負えません。乾坤一擲の決断を下してシリアに乗り込む。そんな気概は僕にはありません。「死ぬかも」じゃいけない。今のシリアを取材するために必要な心持は「死ぬ覚悟」です。

以前からダマスカス周辺の停戦合意はたまに報じられていました。例えば樽爆弾が降り注いでいるダーリーヤ地区、化学兵器が使用され、住民が飢餓に苦しんでいるマーダミーヤ地区、ドゥーマ地区でも政府軍が話し合いのために丸腰で反体制派と接触している動画なんかもありました。ただどれも失敗に終わりました。双方が提示する条件の食い違いと互いの不信感や憎悪が障壁となりました。例外的な地区ももちろんありますが。しかし、先日、いくつかのメディアである地区が停戦に合意したとの報道がありました。それについて詳しく見ていきたいと思います。

http://blogs.afp.com/correspondent/?post/A-moment-of-truce-in-Syria-s-devastating-conflict

停戦が合意された地区はダマスカス南部のBabbila。政府軍によるプレスツアーに参加した記者や写真家は15名。Babbilaは反体制派支配地域ではありますが、周辺は完全に政府軍に包囲された町でした。市内は無傷の建物が見られないほどの惨状に見舞われていました。市内には政府軍と反体制派の双方が武器を携えて入り乱れていました。しかし、銃声は一切鳴り響いていません。

反体制派はシリア人以外にも一部イスラミスト(アルカイダとは別にした外国人武装勢力)の姿も伺えます。彼らは「武器は置くつもりはないが、停戦には合意した」と語り、政府軍は「あいつら(反体制派)は元テロリストだ」と皮肉っていました。住民は枯渇した食料や医薬品が停戦により自由に買出しできることを喜んでいました。現地での滞在時間は1時間ほど。反体制派は記者の質問には口をつぐみました。

http://www.washingtonpost.com/world/middle_east/syria-brokering-local-cease-fires-as-us-backed-talks-falter/2014/02/20/1dc31738-9a50-11e3-80ac-63a8ba7f7942_story.html

ワシントンポストではBabbilaの停戦を踏まえて、停戦とはそもそも何なのかを取り上げています。ジュネーブで開催された和平会議が茶番に終わったにもかかわらず、停戦合意が各地区で成されている。つまり別に国際社会が手助けしなくても当事者間で停戦は成し遂げられるとカーネギー中東センターの分析官Yezid Sayighは述べています。

ベイルートの外交官の一人は「住民を飢餓に陥れて、弱った彼らに停戦を持ちかけることが本当に停戦と言えるだろうか」と批判的です。停戦受け入れを拒絶しているダーリーヤの活動家は「停戦の受け入れ条件に武器の引渡しがあった。しかし、我々は拒絶した。停戦を受け入れた地区を我々は非難できない。飢えの苦しみを解消するために停戦を受け入れざるを得ない切迫した状況だからだ。ただ補給ルートを遮断して停戦に持ち込もうとする政府軍は背後からナイフを突き刺すような卑劣な手法だ」と憤っています。

実際に停戦が結ばれた地区へ物資を搬送した赤新月社のスタッフはそれなりに満足していながらも、検問で物資の半分までしか持込が出来ないことがあり、納得がいっていない様子です。記事の最後にBabbilaでは停戦後も平然と反体制派が武器を携帯していたことに疑問を呈していましたが、明確な答えは記されていませんでした。

http://beta.syriadeeply.org/2014/02/cease-fires-southern-suburbs-damascus-hold/#.Uwe98zZWHIW

SyriadeeplyではISWのメンバー他にインタビューを行っています。内容は停戦合意には悲観的です。体制派と反体制派が同等の立場で停戦が受け入れられているわけではなく、あくまで弱体化している反体制派支配地域を狙って甘言を投げかけているというわけです。また停戦合意を大々的に報じることで国際社会への不満を和らげる、一種のご機嫌取りをアサド政権はしています。

シリアの戦闘地域はダマスカスだけではありません。そのためアサド政権はダマスカスの兵力を他県に移動させたいがために、形だけの停戦を行っていると言われています。停戦が成立すれば兵力に余剰が生じます。その余った兵士を停戦に妥協しない反体制派支配地域に送るというわけです。

ただ今回のBabbilaの記事に添えられた写真。興味深い。水と油が交じり合った光景には目を奪われる。シリアでは本当に不思議なことがいろいろと起きている。今月は更新日が土曜日だけだなあ。なぜなら仕事が休みだから。気になったニュースを拾い集めてお休みの日に消化しているので記事の内容自体が多少は色褪せているかもしれませんが、ご了承ください。