責任の所在-ある若者の死-

こちらの映像を見てください。2013年12月20日の出来事です。

http://www.youtube.com/watch?v=siCCk2MbLQo

アレッポにあるal-Kindi Hospitalを政府軍から奪還するために敢行された自爆テロです。この日の戦闘で少なくとも35名の反体制派の人間が命を落としました。そして、もう一人、18歳の若さで散ったシリア人の写真家Molhem Barakatがいます。彼はロイターのストリンガーでした。ストリンガーを辞書で引くと、「非常勤地方通信員」という訳があります。契約社員みたいな扱いでしょうか。社員を現地に派遣できないため、代役として現場で仕事をこなす人間のことです。彼の仕事は、シリアの現状を伝える写真をロイターを介して配信することでした。しかし、残念ながら、最後に配信された写真は、彼の血染めのカメラでした。http://www.dvafoto.com/wp-content/molhembarakat-bloodycameras1.jpg

「彼がカメラを携えたその瞬間を私は今でも思い出す。彼はソニーのハンディカムを得意げに扱っていた。彼はまだ若く、頭の回転も速く、覚えも早かった。たった数百ドルの金を得るために命を犠牲する価値があったのだろうか」。トルコのガジアンテップのシリア人の活動家Adnan Haddadは彼の死を悼みます。

https://www.youtube.com/watch?v=bAIDO3dVRiw&feature=youtu.be

彼は経験を積んだジャーナリストでさえゾッとするようなリスクを負いました。この映像は彼の勇士を物語っています。56秒から登場する彼は反体制派のメンバーを助けるようと瓦礫を盾にして奮闘しています。すぐ近くに政府軍の戦車が迫っているにもかかわらず。そして砲弾が彼を直撃しますが、幸い彼は難を逃れます。

少なくとも61名のジャーナリストが殉職し、数十名が行方不明となっているシリア。外国人武装勢力の台頭により最近は現地での取材が一層困難になっています。Barakatの死は、戦争特派員として彼を保護すべき十分な手段を講じていなかったロイターへの批判に繋がりました。若干18歳の若者をストリンガーとして起用することへの道徳的なジレンマも取り沙汰されています。安全面での規定を疎かにしていたため彼は命を落としたのではないかと。

Barakatの写真は10枚かそれ以上をセットにして僅か100ドル程度で買い取られていました。先ほどの活動家Haddadの話によれば、稼いだ資金で彼は両親を養っていました。戦争が悪化するにつれて、家族の経済状況が困窮していたためだと思われます。ロイターの回答は彼にはヘルメットと防弾チョッキ、カメラ機材を提供しており、彼の死については調査中だということです。他の記者への懸念もあり、彼についての詳細には注意を払う必要があるとも述べています。

http://www.twitlonger.com/show/n_1rudf4i

「Barakatの突然の死に我々は深い悲しみに包まれています。危険な紛争地で活動する多くの記者の命を最大限に守るため、現時点ではこれ以上の発言は好ましくないものと思われます」

BBCへの返答には誠意の見られないロイターの態度が見受けられます。元ロイターのバグダッド支局長だったAndrew MacGregor Marshallはこの返答に対して「嘘を吐いているだけだ」と憤ります。彼は2名のロイターの職員がイラクで殉職した後、ロイターの安全面での規約の改定に携わっていました。修正された文言には支局員の正規の許可なしで武装したグループとの従軍を禁じるとあります。Barakatに果たしてそのような許可が下りていたのかについてはロイターはコメントを避けています。

ロイターの見解ではBarakatは18歳であると明言していますが、彼は実際には年齢を伏せていました。ドイツの記者Wolfgang Bauerは2013年9月にアレッポでBarakatと会話を交わしました。その際に彼は別の写真家の名前でロイターに写真を送っています。それは彼の年齢が問題視されることを避けるための苦肉の策だと思われました。ロイターから解雇されるのではないかと彼は懸念していたようです。

曖昧な契約を結んでいるのは彼だけではありません。特にシリアの前線取材は反体制派と繋がりが深い人間にしか入り込めない領域に突入しています。だからといって、全ての市民記者をロイターを含めた外国メディアが正規で雇用できるほどの余裕はありません。そこで「ストリンガー」または「フリーランサー」という雇用形態が蔓延しています。出来高払い。歩合制。実力主義。良い写真が撮影できたら買ってあげるが、生死に関しては責任を取れません。ブラック企業というわけです。しかし、彼の死はロイターのストリンガーであったということで問題視されました。実際は多くの市民記者は老若男女年齢問わずシリア各地で使命感から活動しています。命を賭けたボランティアです。

Molhem Barakatの死は氷山の一角です。海中には無数の死者が埋もれています。公式では記者や写真家の死者は100人にも届いていませんが、そんなはずはありません。これだけシリアの悲惨な映像や写真が日々更新されていれば、それだけメディアの人間も存在しています。地位や名誉や金より何より「伝えたい」その一心にはジャーナリズムの原点があるように僕には思えます。

参考サイト

http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/01/07/the_stringer_molhem_barakat_reuters_syria