暗躍する大国-イラク-

「仁義なき戦場(マイケル・イグナティエフ)」。やっぱり難しい。彼の著作が実践で役立つにはまだまだ時間がかかりそう。基礎の構築が大前提なので、これから足場を固めようか。「戦争」の根源を考えることが「戦争」の理解に繋がる。歴史を振り返りながら、民族紛争、宗派抗争、国連や赤十字国際委員会の役割、なぜ戦争は終わらないのか、シリアを追いかけている僕にとって非常に有益な情報が溢れた一冊でした。まだ読みかけだけど。

先月の死者が948人。犠牲者の約9割が一般市民。シリアのお隣のイラクの話です。そのイラクとシリアとの関係を読み解けたらと思いますが、あんまりそれに関した記事が見当たりませんでした。

http://www.washingtonpost.com/world/middle_east/next-door-to-syria-an-al-qaeda-linked-group-is-also-gaining-ground-in-iraq/2013/12/07/ca9dfd4a-5e16-11e3-bc56-c6ca94801fac_story.html

シリア北部で猛威を振るう勢力に「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」があります。彼らはイラクとシリアを拠点に活動しています。2013年、イラクではテロにより6200人の命が奪われました。ISISも深く関わっています。そしてシリアではISISが独自の行政機関(裁判所、学校、役所)を設置することで初期段階ではありますが、小さな国家を築き上げています。

シリアでのISISの快進撃はイラクにも影響を及ぼしています。ただこの記事の大半がイラクの情勢について語られており、シリアにはほとんど触れられていなかったので、次の記事に移りたいと思います。イラクもテロの嵐に見舞われて悲惨な状況ですが。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/the-road-from-iraq-to-damascus-iraqis-fight-to-the-death-to-defend-shia-shrines–they-show-less-zeal-for-assads-regime-8983559.html

ダマスカス近郊にサイイダ・ザイナブ廟があります。第4代カリフ、アリーとファーティマの間に生まれた娘、ムハンマドの孫娘にあたるサイイダ・ザイナブの廟です。シーア派にとっては聖地のような場所であり、年間200万人ほど参詣者が訪れるそうです。確かにダマスカス滞在中、内戦が激化しているにもかかわらず、イラン人のツアー客を多く見かけました。現在、この廟を死守するためにイラクからシーア派の志願兵が駆けつけています。

負傷兵の一人、Sattar Khalafは「アサドやバース党のためではなく、サイイダ・ザイナブ廟を守るために戦いに来たんだ」と述べています。あるシーア派の指導者によれば、3800から4700名ほどがシリアに展開しているそうです。イラクが抱えるシーア派の人口は2千万人。ISISを含めたスンニ派で構成される外国人勢力がシリアでの影響力を増す中で、隣国イラクのシーア派は彼らに脅威を感じています。なぜなら穏健派であったFSAの標的は主に政府軍であるのに対して、外国人勢力は政府軍に加えて、シーア派、クルド人、さらにはFSAすらも攻撃対象としているからです。

しかし、泥沼化しているイラクがさらなる泥沼に足を突っ込むことにシーア派の政治家、指導者は危惧しています。シーア派の聖職者であるシスターニ師もシリアでの聖戦に参加するファトワーの発行を拒絶しています。だからといって、志願兵としてシリアで戦闘に参加しているイラク人を非難しているわけでもありません。

イラクからシリアに乗り込む手段として陸路と空路があります。スンニ派の支配地域アンバル州を通過する陸路は危険であるため、バグダッド、ナジャフからダマスカスに向かう空路が比較的安全なルートだとされています。 先ほどの負傷兵Sattar Khalafによれば、200人ほどのイラクからの志願兵がダマスカスに到着すると、政府軍がエスコートのため出迎えてくれたそうです。サイイダ・ザイナブ廟に展開する部隊のトップはイラン人の将校であり、彼は廟の周辺に地雷を仕掛ける作業に従事しました。

クサイル奪還に尽力したヒズボラと比べて、イラクからの志願兵は質、量ともに劣ります。反体制派のように外国人勢力が幅を利かせているわけでもありません。イランはシリアでの聖戦に参加するようにイラクの尻を叩いています。イランの息のかかった勢力であるAsa’ib Ahl al-Haq(2000から3000)やHezbolla(800)は積極的な姿勢を示しています。また給与の支払いも約束されています(イランから?)。未経験者であれば700ドル、経験者であれば850ドル、将官クラスであれば1500ドル、月々支給されます。イラクは内戦の激化に伴い、国内には失業者が溢れています。貧困からの脱却の手段として武器を手にするイラク人も少なからず存在します。

Ghafil Khayoun Khadim(38)もその一人です。現在失業中の彼は妻と2人の子供を養うためにシリアでの戦闘に参加しました。前金として500ドルを受け取りました。しかし、シリアに派遣された彼は驚くべき光景を目にしました。廟で殉教者6名への祈りを捧げるイラクからの志願兵たち。この6名は全員、廟からは遠く離れた地域で命を落としていました。「我々はサイイダ・ザイナブ廟を死守するために命を賭けている。アサド政権を支えるためではない。しかし、私の声はかき消されている」。彼は金のためだけでなく、シーア派の聖廟を死守する使命感に燃えての聖戦の参加でした。その後、彼は政府軍によりダマスカスの空港周辺の警護を任されました。

彼は落胆して、銃を置き、帰国の途に就きました。「聖廟を守るためであり、バース党政権を支えるためではない」。彼の捨て台詞です。

信憑性がどこまであるのか分かりませんが、この記事が事実であれば、ヒズボラやイランが頻繁に話題になるのと比べれば、イラクはさほど問題視するほどでもないか。そもそも他国に手を差し伸べる余裕が今のイラクにあるかどうか。イラク情勢もまた複雑な要素をはらんでいる。