拡散する火種-レバノン-

自国だけに留まらず、他国へと甚大な被害をもたらすのが今のシリア紛争です。特に近隣諸国への悪影響は計り知れません。シリアでの内戦の当事者は自国民だけでなく、他国民も相当数含まれています。聖戦を掲げる勢力の国籍は乱立しており、反体制派側と体制派側で支持する国々も分かれます。先日、発生した自爆テロを背景にレバノンとシリアとの関わりを紐解いてみたいと思います。

http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304607104579210151841138592

11月19日、レバノンの首都ベイルートで2件の自爆テロがほぼ同時に同じ場所で発生しました。死者25名、負傷者147名。標的にされたのがイラン大使館です。犯行声明は Abdullah Azzam Brigadesが出しています。決して大きな勢力ではないみたいですが、アルカイダの流れを汲む、レバノンを拠点に活動するスンニ派で固められた組織です。イランが狙われたのは、もちろんアサド政権の強固な支持母体だからです。翌日の葬儀には黄色のフラッグに包まれた棺を抱えた参列者が見受けられました。銃を空に向けて打ち鳴らす。ここにイランに加えて、アサド政権を支える組織、ヒズボラが登場します。ベイルートでは何度かテロが発生していますが、激戦地として知られるのは第二の都市トリポリです。こちらでは多数を占めるスンニ派と少数であるアラウィー派が争っています。また第三の都市シドンでは同じくスンニ派とヒズボラとの衝突も続いています。政府が過激な勢力を取り締まる措置を施していますが、政治家の中にもスンニ派議員が在籍しており、彼らは政府のそのような態度には消極的です。トリポリ郊外ではアルカイダの旗の下で、武装した地元民が市内をパトロールしているような状況です。

 Abdullah Azzam Brigadesの宗教的指導者であるSirajeddine Zuraiqatは20代半ば。今年に入り、レバノン国軍に拘束されていますが、その後に釈放されています。また別に過激な指導者としてShadi Mawlawiがおり、彼も去年に逮捕されています。しかし、彼を支持する人々が武装蜂起し、333ドルという保釈金により釈放されました。この釈放に深く関与していたとされる人物がミカティ前首相とされています。レバノンでは大統領がマロン派、首相はスンニ派、議会議長はシーア派と憲法に定められています。つまりミカティ前首相はスンニ派の肩を持ったのでは推測されます。

Mawlawiはヌスラ戦線との繋がりを否定していますが、何百万ドルという資金と何百という武器をシリアの反体制派勢力のために費やしています。彼は現在もトリポリで大手を振って町中を歩いているそうです。レバノン政府が宗派間抗争の火種を消化できる術は持ち合わせてないと見るべきでしょう。

http://www.nytimes.com/2013/11/20/world/middleeast/blast-hits-shiite-area-of-beirut.html?ref=middleeast&_r=0

テロ発生の様子が書かれています。最初の爆発は大使館の門前で発生しました。続いて、大使館敷地内でバイクにまたがった自爆テロ要員が炸裂しました。

イランは欧米との六カ国協議に追われています。シリアの混乱はイランの足かせになっています。武器の提供から軍事専門家の派遣にアサド政権への支援は数十億ドルにも上ると言われています。それでもイランはシリアから手を引こうとしない。なぜなら、ハメネイ師や革命防衛隊が考えるシリアの地理的重要性に関係があります。イスラエルからの脅威に歯止めを掛ける防波堤としてアサド政権の存続は必要不可欠だと考えます。イラン-シリア(アラウィー派)-レバノン(ヒズボラ)のラインです。しかし、ロウハニ政権に携わる幾人かはシリアの「ベトナム化」を懸念しています。経済制裁で苦しい状況下で、先行きの見えないシリアに投資し続けるのはいかがなものか。

別の懸念材料もあります。このままアサド政権に与すれば、第二、第三の被害が想定されるからです。イラン大使館、高官、さらにイラン人全般にまで標的が拡大する懸念があります。レバノンに限らず、ヨルダン、イラク、トルコ。イランが今回のテロで真っ先に矛先に上げたのが、イスラエルでした。スンニ派の犯行だと承知していながらも、あえてイスラエルを名指ししたのも、シリアへの干渉に賛同する勢力と反対する勢力との均衡を図るため、またレバノン全体に戦火に包まれることを嫌うヒズボラの意向が反映されているようです。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/beirut-bomb-blasts-kill-23-iranian-embassy-is-the-target-in-a-widening-war-between-shia-and-sunni-8948809.html

一発目は小型の爆弾が使用され、周囲の人々が集まってきたところで、2発目のどでかい爆発が起きた。そのため死傷者の数が増大したようです。ここ数週間でレバノンでは宗派間抗争により66名が命を落とし、今回の死者を加えれば、90名に到達します。現場ではレバノンの国軍よりもヒズボラのメンバーの方が数の上で圧倒していたといいます。さらにはシリアでのヒズボラの存在感がアサドの政府軍を押しのけているなどと噂されるほどの影響力があります。

シリアの火種は様々な国々に拡散されています。どういった結末を迎えるのか。そもそも結末なんてあるんだろうか。ゴールが見えない中でただただ殺しあっている。何だろうなあ。悲しい。