アレッポ北部の攻防戦

和平協議による事態の打開は虚しくも崩れ落ちました。日程がずれ込み、誰も期待していない最中で開催されましたが、数日後には一時中断を宣告されました。今月末に再開されるようですが、シリアでは戦火は衰える兆しは一向に見られません。

http://www.theguardian.com/world/2016/feb/05/syrian-refugee-numbers-continue-to-build-on-turkish-border

数万人のシリア人が難民となってトルコとの国境に押し寄せています。しかし、トルコ側は国境を封鎖したまま、難民は行き場を失っています。和平協議が行われている最中に、アレッポではアサド政権とその協力者、ヒズボラ、イラク、イランのシーア派民兵が地上から、空からはロシアが尋常ではない空爆を行い、反体制派の支配地域の奪還に乗り出しました。特にロシアの空爆は数分置きに無差別に爆弾が投下され、町や村を薙ぎ払いました。多数の死傷者が出ました。 続きを読む

安定からは程遠いシリアの実情

http://www.nytimes.com/2014/04/06/world/middleeast/break-in-syrian-war-brings-brittle-calm.html?ref=middleeast&_r=0

Anne Barnard記者からの報告です。彼女のツイッターをフォローしていますが、ダマスカスの写真が頻繁にアップされていました。

ダマスカスの雰囲気が変化したことは明白である。この文章から始まる彼女は首都ダマスカスの様相を「Brittle Calm(儚げな静けさ)」と形容しています。風船から空気が漏れ出すように町から警戒感が薄れつつある。検問は縦横無尽に張り巡らされているが、歩哨は穏やかで冗談が飛び交うほど市内は落ち着いているように見える。 続きを読む

カラモン攻防戦-終結-

http://www.understandingwar.org/sites/default/files/Qalamoun-Map.jpg

このマップを使うのも今回で終わりになるのでしょうか。カラモン攻防戦、アサド政権に軍配が上がったようです。ここを奪われたら、レバノンからの補給ルートがほぼ壊滅状態に陥るのではないでしょうか。反体制派の必至の抵抗もヒズボラの参戦により力尽きたか。いくつかの記事を並行して一連の動きを読み解きたいと思います。

http://www.reuters.com/article/2014/03/15/us-syria-crisis-town-idUSBREA2E06P20140315

カラモン一帯で唯一の反体制派の砦とされたYabroudが体制派(アサド政府軍、ヒズボラ)に圧倒されつつあります。反体制派の構成員は大半がシリア人主体のFSAとは異なる外国人部隊であるヌスラ戦線で固められています。先日、昨年12月に誘拐された修道女13名が解放されました。その交渉役の一人であり、ヌスラ戦線の指揮官Abu Azzam al-Kuwaitiは金曜日に殺害されました。 続きを読む

カラモン攻防戦

先月、スウェーデン国籍の記者と写真家が誘拐されたばかり。今度はスペイン国籍の記者と写真家がISISに誘拐された(拘束された?)。日時は9月16日だから3ヶ月ほど前になる。その間、誘拐犯と間接的に連絡を取り合っていたらしい。場所はISISが猛威を振るうラッカ県。FSAが4人付き添っていたが、彼らも拘束され、後に釈放された。国境なき記者団が「シリアはジャーナリストにとって世界で最も危険な紛争地である」と警告している。「Nothing venture, Nothing gain」。「A wise man keeps away from danger」。僕は言わずもがな後者です。ただwiseじゃなくてcowardだけど。

参考サイト http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-25314832

何週間にも渡って繰り広げられていたカラモン山脈での攻防戦。ヒズボラの支援により政府軍がある一定の勝利を収めた。ダマスカスとホムスを結ぶ高速道路がカラモン山脈沿いに走っている。地図を見ながらの方が分かりやすい。 続きを読む

拡散する火種-レバノン-

自国だけに留まらず、他国へと甚大な被害をもたらすのが今のシリア紛争です。特に近隣諸国への悪影響は計り知れません。シリアでの内戦の当事者は自国民だけでなく、他国民も相当数含まれています。聖戦を掲げる勢力の国籍は乱立しており、反体制派側と体制派側で支持する国々も分かれます。先日、発生した自爆テロを背景にレバノンとシリアとの関わりを紐解いてみたいと思います。

http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304607104579210151841138592

11月19日、レバノンの首都ベイルートで2件の自爆テロがほぼ同時に同じ場所で発生しました。死者25名、負傷者147名。標的にされたのがイラン大使館です。犯行声明は Abdullah Azzam Brigadesが出しています。決して大きな勢力ではないみたいですが、アルカイダの流れを汲む、レバノンを拠点に活動するスンニ派で固められた組織です。イランが狙われたのは、もちろんアサド政権の強固な支持母体だからです。翌日の葬儀には黄色のフラッグに包まれた棺を抱えた参列者が見受けられました。銃を空に向けて打ち鳴らす。ここにイランに加えて、アサド政権を支える組織、ヒズボラが登場します。 続きを読む

クサイル陥落-追加-

政府軍とヒズボラによるクサイル奪還は反体制派にとって大きな打撃でしょう。反体制派はシリア全土で決起していますが、常に悩まされているのが武器の不足です。武器の密輸ルートとして考えられるのがヨルダン、トルコ、そしてレバノンになりますが、ヨルダン経由ならダッラー県、トルコ経由ならイドリブ県、アレッポ県、ラッカ県、レバノン経由はホムス県と区分されているように思われます。レバノン経由であるクサイルが潰されたことで、ホムス県を拠点としている反体制派勢力は一気に弱体化すると予測されます。それに比べて、政府軍はクサイルを奪還したことで、ヒズボラとの連携がより強固になった上に、ロシアやイランからの武器の支援も受けています。 続きを読む

クサイル陥落

政府軍が優勢なのは分かっていたけど、3週間足らずでクサイルが政府側の手に渡るとは。いや・・・3週間も持ちこたえたと言うべきなのだろうか。レバノンからクサイル経由でシリアに入国していた記者や写真家が多数いたけど、政府軍の手に落ちた以上、それも事実上不可能となる。これから先、政府軍と共闘したヒズボラがシリアの内戦にどこまで深入りしていくのかが、シリアの行方を大きく左右すると思う。既にアレッポには千人単位でヒズボラが集結しているという情報もあるし。

クサイルが制圧されたのが、水曜日の朝。前日に自由シリア軍が「町の50パーセントが政府側の手に渡った」と答えていたが、その時点で既に勝敗は決まっていたのだろう。自由シリア軍は市内からの撤退を決断し、クサイル郊外の村々を拠点に再びクサイルを奪還する腹積もりらしい。しかし、今回の戦闘で自由シリア軍を悩ませたのがモノ不足である。武器、弾薬、食料、医薬品、そして人員である。これまでのようにレバノンからクサイルを通じて流れていた人や物の流れが、クサイル自体が戦火に包まれ、補給ルートが完全に遮断された。逆ルートという発想もある。レバノンが駄目なら、シリア側からクサイルに人員や物資を送り込むという手段。しかし、これは不可能である。ホムス県唯一の反体制派地域がクサイルであり、周辺の都市は政府軍が守りを固めている。まさに陸の孤島。密輸ルートを確保しながら、クサイルから脱出するのが精一杯というのが実状だった。それでも、補給ルートが潰された状態で、3週間の踏ん張りはクサイルが地理的にも重要な都市だったからである。 続きを読む

クサイル攻防戦-追加-

5月19日から始まった政府軍と自由シリア軍との攻防戦が3週目に突入しました。ヒズボラの支援と圧倒的な火力を有する政府軍は徐々に自由シリア軍が築いた包囲網を侵食しています。懸念されるのがクサイル市内に取り残されている一般市民です。

今回の戦闘により、1500人ほどの負傷者がクサイルの医療施設で治療を受けています。クサイルの病院は真っ先に政府軍の標的にされ、負傷者は簡易 型の小さなクリニックに収容されています。数少ない医師と看護師による応急処置で辛うじて一命を取り留めている患者は少なくありません。どれだけ優秀な医 師でも治療するためには医薬品が必要です。しかし、クサイルの供給ルートは政府軍により完全に遮断されています。医薬品に限らず、日用品、食料すらも滞 り、インフラが破壊されているため、電気や水道の供給も脆弱です。

赤十字がシリアのアサド政権に、クサイルに取り残されている一般市民への救援物資の支援を申し入れていますが、外相のワリード・モアッレム(Walid Moallem)は「作戦が終了するまでは立ち入りを禁じる」と赤十字の提案を拒絶しています。

クサイルでは廃墟と化した家々の一部を改築して50軒ほどのクリニックを設置しています。それでも増え続ける負傷者に対応できるほどの人員も物資も ありません。今月スイスで開催予定のジュネーブⅡ。アサド政権の代表団が出席するはずですが、反体制派のシリア国民評議会は内部分裂が起きている上に、彼 らが申し入れている「ヒズボラのシリアからの撤退」と「アサド大統領の退陣」の条件を現政権が受け入れることは100パーセントありません。つまり、現時 点で会議が決裂することは目に見えています。対話で解決できるほどシリアの情勢は楽観的じゃない。誰の目から見ても明らかなはずなんだけど。

赤十字のアラブ版「赤新月(arab red crescent)」がシリア国内で活動しています。政府の監視下にあることはもちろんですが、決して政権側の人々だけに手を差し伸べるわけではありませ ん。バニアスの虐殺の際にも、赤新月は現地入りして、遺体の処理や負傷者の手当てを行っています。中立的に活動をしている国際医療団体です。反体制派が牛 耳っている町にも潜り込み、そこで暮らす人々の診療や物資の供給を行っています。そのため政府軍に拘束される職員も少なくありません。それでも彼らはシリ ア国内、ダマスカスを含めた危険な地域での活動を積極的に行っています。

“You save one soul, you see the smile of one child, it gives you power for months,”

命に貴賎はありません。体制派だろうと反体制派だろうと、彼らの仕事は命を救うことです。アレッポのダル・シファ病院での取材中、政府側の民兵 (シャッビーハ)が3名運び込まれてきました。頭や手足から血を流した瀕死の彼らを医師は当たり前のように治療を施していました。その様子を見て、思わず 涙が溢れ出た。でも、その1ヵ月後にダル・シファ病院は空爆され、その際に医師が1名と看護師が数人、犠牲になった。

参考サイト

http://www.reuters.com/article/2013/06/03/us-syria-crisis-icrc-idUSBRE9520MG20130603?feedType=RSS&feedName=worldNews

http://www.dailystar.com.lb/News/Middle-East/2013/Jun-03/219302-battle-for-qusair-enters-third-week-civilians-remain-trapped.ashx#axzz2V8l8ztBU

http://www.nytimes.com/2013/06/03/world/middleeast/syrian-red-crescent-volunteers-sidestep-a-battle.html?pagewanted=1&_r=0&ref=middleeast

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クサイル攻防戦-追加-

「Hezbollah leader Nasrallah vows victory in Syria」

昨日、体制派がクサイルを絨毯爆撃しました。三方面からクサイルを包囲し、迫撃砲と空爆で市内各所を蹂躙しました。政府軍を支援しているのはヒズボラで、正確な数は発表されていませんが、既に数十人を越える死者がヒズボラ側に出ているそうです。彼らの遺体はクサイルから国境を越えて、レバノンに運ばれ、市民により盛大な葬儀が行われています。ヒズボラの関与は指導者であるナスラッラーが公式に認め、クサイルでの戦闘での敗北は今後のヒズボラの命運を大きく左右することになるでしょう。そのため、さらなる戦闘員がクサイルに送り込まれることは確実です。 続きを読む

クサイル攻防戦

先日、アブ・サッカルの話をしました。彼の蛮行は多くの非難を浴びました。彼自身はその後のインタビューで、「法の裁きを受ける覚悟はある。ただし、アサドと彼に従うシャッビーハも同じような裁きを受けなければならない」、「このままシリアで流血が続ければ、私のような人間はいくらでも現れるだろう」と述べています。その彼の部隊が展開している場所がホムス県のクサイルという町です。3日ほど前からクサイルでは双方による陣地の奪い合いが続いています。

双方とは体制派と反体制派です。体制派は政府軍とシャッビーハ、反体制派は自由シリア軍。それとクサイルでは体制派を後押しする強力な部隊も加わっています。ヒズボラです。ヒズボラがシリアの内戦に関与していることは以前から報道されてきましたが、小規模なものでした。しかし、クサイルが自由シリア軍の手に落ちて以降、シリア、レバノン領内のシーア派の村に迫撃砲が着弾するようになりました。死傷者も出る事態に危機感を募らせたヒズボラは(イスラエルの空爆にも神経を尖らせていたこともあり)盟友であるアサド政権を徹底的に支持することを誓います。それが先月のヒズボラ指導者のナスラッラーの演説になります。そして彼の演説は今回のクサイル攻防戦へと繋がります。クサイルを自由シリア軍から奪還すれば、少なくとも国境沿いのシーア派の村が攻撃にさらされる心配はなくなります。同時にクサイルは首都ダマスカスとアラウィ派が拠点とする地中海沿いの地域一帯を結ぶ重要な町です。ここを潰せば、反体制派への物資の補給や人員の補充を厳しくなり、政府側にとっても今後の戦況を有利に運べるようになるのは確実です。両者の思惑が合致し、クサイルは火の海に包まれました。 続きを読む