シリアの行方-トランプ勝利で何かが変わるのか-

シリア情勢は毎日のように見ていますが、アメリカの大統領選の結果によって何かシリアに変化がもたらされるのか、それについては無関心でした。ヒラリーだろうとトランプだろうと、アメリカのトップが変わっても、シリアには直接の影響はないだろうと感じていました。でもトランプ勝利とシリアを関連付けた記事を多く見かけます。それらを紹介できればと思います。

https://www.theguardian.com/world/2016/nov/11/syrian-opposition-left-with-nowhere-to-turn-after-trumps-victory

シリアの反体制派の政治家、軍の司令官はヒラリーへの期待を膨らませていました。彼女は反体制派への支援が国益につながると主張していました。一方、トランプはアサド政権への支持を打ち出し、ロシアへの賞賛を表明していました。トランプは反体制派を無差別に爆撃するロシアを支持し、そこに残る人々への降伏を望んでいます。

アメリカの指導者が変われば、イスラム国に対する攻撃姿勢にも変化が現れると反体制派の政治家は予測しています。しかし、イスラム国に関してはこれまでのスタンスを維持する傾向に思われますが、オバマ政権が70近い反体制派の部隊に訓練と限られた武器を提供してきた政策には影響が及ぶだろうと推測されます。なぜなら、トランプがその政策に対して懐疑的だからです。

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レバント征服戦線を標的に-アサド政権と最も敵対する組織-

これは以前からずーと指摘されていることです。アメリカはイスラム国と平行してレバント征服戦線(旧ヌスラ戦線)を標的にしています。上位に位置する指導者をピンポイントで殺害するほどの執着です。これには現地のシリア人からも反感を買っています。なぜならレバント征服戦線(JFA)はアサド政権と最も果敢に戦果を交えている反体制派勢力だからです。その解説になります。

https://www.washingtonpost.com/world/national-security/obama-directs-pentagon-to-target-al-qaeda-affiliate-in-syria-one-of-the-most-formidable-forces-fighting-assad/2016/11/10/cf69839a-a51b-11e6-8042-f4d111c862d1_story.html

オバマ大統領はペンタゴンに強い要求を突き付けている。アルカイダと繋がりがあると指摘されるヌスラ戦線の指導者を殺害するようにと。ヌスラ戦線は長年に渡り、アサド政権と敵対してきた勢力である。にもかかわらず、執拗に標的にするのはなぜなのか。

オバマ大統領の高官はこう答えている。ヌスラ戦線は今でこそシリア国内で反体制派勢力の一員としてアサド政権と戦火を交えているが、いずれは国内から国外、ヨーロッパへとテロの矛先が向かうだろう。この発言から察するに、オバマ政権はアサド大統領の退陣を望むよりもヌスラ戦線によるグローバルテロリズムを警戒していることがうかがえる。

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シリアのおさらい

シリア情勢は複雑だと一般には言われています。確かにその通りなのですが、民衆蜂起から現在に至るまで、時系列で物事を眺めていくと、それほど道に迷うことなく、すんなりと理解できます。ただ、2011年3月から現在までのシリアでのニュースを拾い集めるとなると、膨大な労力と時間が費やされます。仮に今、2016年9月、「シリアを勉強しよう!」と思った方がいるとしたら、それは大変な作業になります。2012年3月からシリア情勢を眺め続けている僕でも、何とか追いつけている状態です。息切れしてます。こんな記事を見かけたので、補足を交えて紹介したいと思います。

http://www.nytimes.com/2016/09/19/world/middleeast/syria-civil-war-bashar-al-assad-refugees-islamic-state.html

1 シリアで行われている戦争とは何か

今行われている戦争は4つの層で構成されています。まず最も核となるのがアサド政権と反体制派です。さらに両者はシリア人と外国人で組織されています。両者の基本的な意見の相違はアサド大統領を政権から追い出すか、残留させるかです。

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停戦の行方

http://www.aljazeera.com/news/2016/09/syria-scores-killed-air-strikes-truce-deal-160910135209691.html

昨日、イドリブ市でロシアによる空爆がありました。標的にされたのは住宅街と市場です。イード(犠牲祭)を目前にして、市場には多くの買い物客がいました。死者は55人に上りました。さらにアレッポでは9人の子供を含めた46人が政府軍の空爆で犠牲になりました。これらの攻撃はアメリカとロシアがシリア内戦の終結に向けた協議に進展があったことを告げた、数時間後の出来事です。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/syria-peace-russia-us-assad-isis-al-nusra-a7236361.html

アメリカとロシアとの協議、その結果で導き出されたシリア内戦終結への道。仮に実行に移されるとしたら、大きな進展です。ロシアはアサド政権に反体制派地域への空爆を止めるように圧力をかける。なぜならアサド政権の空爆の最大の犠牲者は戦闘員ではなく一般市民だからです。ケリー国務長官は述べます。

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アレッポからの手紙-医師からの願い-

シリアの内戦を見ると、秩序が崩壊しています。でもそれが戦争だから、仕方がないのかもしれません。戦争をしていない場所で、現在進行形で繰り広げられている戦争を止める手段を考えても、戦争をしている国で暮らす人々には何の助けにもならないでしょう。それでも、自らの力で戦争を止められない状況では、外からの力に望みを託すしかないのでしょう。目の前で人がバタバタと殺されているのですから。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/aleppo-siege-doctors-syria-starvation-assad-forces-russian-airstrikes-humanitarian-crisis-a7183281.html

包囲されていたアレッポですが、反体制派の猛攻により小さな穴が空きました。それでも物資の不足は著しく、燃料は高騰し、インフラは壊滅状態、衛生面は最悪の状況です。さらに上空からはアサド政権とロシアによる爆弾の雨が降っています。アレッポには数少ない医師が懸命に負傷者の手当を行っています。そんな彼らからオバマ大統領に宛てたメッセージが送られました。翻訳(意訳)してみたいと思います。

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アルカイダを育てた肥沃な大地-ヌスラ戦線-

Charles Listerからのシリアの分析記事になります。たまに批判されたり、誤りを指摘されたりしていますが、内戦に陥ったシリアを継続的に分析されている一人かと思います。僕も学ばせていただいています。

http://www.thedailybeast.com/articles/2016/07/06/al-qaeda-reaps-rewards-of-u-s-policy-failures-on-syria.html

戦争と外交とは密接な関係にあります。しかし、一方でシリアの現状を見れば、もはや話し合いから有意義な結果を導き出すこと、ましてや解決など望めません。アサド政権は敵対勢力を嘲るか殺戮すること以外には政治的な解決など考えていません。一方で、彼を支持する側の人間に対しては、彼の身の安全を確保するために命を危険にさらしてでも防衛させます。

にもかかわらず、アサド政権の生存に大きな利益を施しているのは、アサド自身でもなく、ロシアでもイランでもヒズボラでも、さらにイスラム国でもなく、実はアルカイダなのです。5年の歳月が流れ、政略的な硬直状態に陥り、過激的な思想が徐々に表明化していく中で、シリア内戦の火種を沈静化しようとする欧米諸国の失策からアルカイダは利益を得ていました。アルカイダとはアルカイダ系のヌスラ戦線を示します。ヌスラ戦線は今年に入り、3000人以上のシリア人の戦闘員を獲得しました。 続きを読む

アメリカの行き詰まり-クルド人勢力とスンニ派勢力-

シリアで勢力範囲を飛躍的に拡大している組織があります。それがクルド人部隊、YPGとYPJです。YPGとはクルド語で「Yekîneyên Parastina Gel‎」、YPJとはクルド語で「Yekîneyên Parastina Jin‎」、その頭文字を取っています。日本語であれば、人民防衛隊と訳されます。YPGが男性戦闘員、YPJが女性戦闘員となります。

去年の4月、私はシリアの小さな町、コバニを訪れました。コバニはクルド人の支配地域です。イスラム教には寛容というより、宗教の匂いは一切なく、彼らを結び付けている民族の力強い連帯感を肌身を通して感じました。ただアラブ人と同じで外からの人間に対してはとても優しく、歓待されました。そのクルド人がシリア内戦で非常に重要な立ち位置にいます。 続きを読む

Enough is enough

マイケル・イグナティエフとLeon Wieseltierによるオピニオンです。

https://www.washingtonpost.com/opinions/the-era-of-us-abdication-on-syria-must-end/2016/02/09/55226716-ce96-11e5-88cd-753e80cd29ad_story.html

アレッポでのロシアの空爆は多くの民間人を死傷し、数万人の人々を追い立てた。この巨大な街が包囲されれば、物資の供給も滞り、多数の住民が飢餓の恐怖にさらされるだろう。欧米のシリア政策が道徳的破綻をきたすのも時間の問題である。

実際に、道徳的破綻は長く続いている。シリアの大統領は退陣すべきだという5年に渡る空虚なスローガン、気乗りしない反体制派への武器支援、化学兵器の使用で超えたはずのレッドラインの有名無実化、西側諸国の互いの押し付け合いから生じた緊張の下での難民の不十分な対応。その結果、25万人の死者と700万人の国内避難民、500万人近くの難民を生み出した。難民のうち200万人は子供である。 続きを読む

シリア和平プロセス

和平への道筋を示したシリアのロードマップが国連安保理で全会一致で採択されました。民衆蜂起が大規模に始まった2011年3月以来、国際社会が足並みを揃えて、和平プロセスに賛同の意を示したのは初めてになります。

ケリー国務長官はこう述べています。「今回の安保理は全ての関心すべき事柄に対してはっきりとしたメッセージを送った。関心すべき事柄とは暴力の停止と長年に渡り被害を受けてきたシリアの国民が支持できる政府の基礎を形作ることである」。

ロシアとアメリカのシリアへの見解には食い違いが見られます。欧米諸国はアサド大統領の退陣を求めています。ロシアはアサド政権を支持しています。そのため今回の決議案ではこの両者の対立を避けることで一致をみました。つまりアサド大統領の今後については触れないということです。 続きを読む

Can anyone stop the killing in Syria?

シリアに足を運んで感じたのが、こんな世界が許されるんだという感情です。同時に、こんな世界にもこんな世界に合わせた秩序が生まれるんだという発見です。ただ、一般市民が無差別に殺戮されれば、その加害者を裁くのが常識です。そして事態が収束するように働きかけるのも常識です。ただ誰がそれを行うのか。

http://www.aljazeera.com/indepth/opinion/2015/09/stop-killing-syria-150917082817952.html

アサド大統領にその資格はあるのか。彼は自らの地位を犠牲にしてシリアを守るより、シリアを犠牲にして自らの地位を守る道を選びました。しかし、アサド政権だけでは民衆革命を収束できず、内戦に突入し、イランやヒズボラの手を借りました。それでも事態は収まらず、さらにロシアの介入を招いているのが現状です。そもそも、何十万人というシリア人を殺害している彼にシリアを正常化するための資格はないでしょう。 続きを読む