シリアの行方-トランプ勝利で何かが変わるのか-

シリア情勢は毎日のように見ていますが、アメリカの大統領選の結果によって何かシリアに変化がもたらされるのか、それについては無関心でした。ヒラリーだろうとトランプだろうと、アメリカのトップが変わっても、シリアには直接の影響はないだろうと感じていました。でもトランプ勝利とシリアを関連付けた記事を多く見かけます。それらを紹介できればと思います。

https://www.theguardian.com/world/2016/nov/11/syrian-opposition-left-with-nowhere-to-turn-after-trumps-victory

シリアの反体制派の政治家、軍の司令官はヒラリーへの期待を膨らませていました。彼女は反体制派への支援が国益につながると主張していました。一方、トランプはアサド政権への支持を打ち出し、ロシアへの賞賛を表明していました。トランプは反体制派を無差別に爆撃するロシアを支持し、そこに残る人々への降伏を望んでいます。

アメリカの指導者が変われば、イスラム国に対する攻撃姿勢にも変化が現れると反体制派の政治家は予測しています。しかし、イスラム国に関してはこれまでのスタンスを維持する傾向に思われますが、オバマ政権が70近い反体制派の部隊に訓練と限られた武器を提供してきた政策には影響が及ぶだろうと推測されます。なぜなら、トランプがその政策に対して懐疑的だからです。

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アレッポで暮らす子供たち

アレッポの街中をうろうろしていると必ず子供たちに囲まれます。銃声が鳴り響き、迫撃砲の重い音が木霊しても、上空をヘリが旋回して、瓦礫の山が築かれても、子供たちは笑顔で走り寄ってきます。僕自身はあまり子供をテーマにして取材はしていません。「戦火の中で生きる子供たち」みたいなベタな内容の記事を書きたくないという理由もあります。それでも、ふとシリアでの生活を振り返ると、子供たちの姿が真っ先に浮かびます。

http://www.nytimes.com/2016/09/28/world/middleeast/syria-aleppo-children.html

そんな子供たちのお話しがNYTimesに掲載されていました。笑顔とは対照的な悲惨な光景が現在のアレッポで暮らす子供たちの姿です。

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人として

シリアを取材して初めて心の底から伝えなきゃと思いました。以前までは伝えることは「取材に協力してくれた方々への礼儀」、「ジャーナリストとしての義務」という側面が強くありました。でも、初めてシリアを訪れ、そこで目にした光景は、ジャーナリストという職業とは関係なく、一人の人間として、伝えないといけないという思いが自然と湧き上がってきました。

これほどひどいことが行われているのに、どうして誰も助けてくれないのだろうか。一時的ではあれ、現場に身を置くと、そう感じます。この惨状を世界に伝えれば、状況は改善されるかもしれない。多くのジャーナリスト、市民記者、活動家がシリアの窮状を世界に訴えかけました。しかし、戦況は悪化し、死者は増え続けています。それでも報道は止みません。シリアの様子は毎日のように流れてきます。

報じたところで今すぐ戦火が止むわけではない。救いの手が差し伸べられるわけではない。でも伝えなきゃいけない。そう思わせているのは、ジャーナリストだからとかではなく、やはり人間だからだと僕は思います。戦争は殺し合いです。そこに人道だとか人権だとか甘い言葉は通用しません。でもただ殺されている人々を黙って見ていられないのが人だと思います。だから世界はシリアを報道し続けるし、僕もお金にはならないけれど、時間が許す限りブログを更新しています。

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偽りの世界-理想と現実とのギャップ-

今月21日、アサド大統領がAPとのインタビューに応じました。そのAPがアサド大統領の発言の真偽を検証する記事を配信しました。以前、2015年2月、BBCのJeremyBowenが単独インタビューした際にはじっくりと彼の発言に耳を傾けましたが(http://t-sakuragi.com/?p=1901)、今回はこの記事にしか目を通していません。

https://apnews.com/2208a4c2eb384594af44ff49d158cfe7

アサド大統領が強調している点が三つ。一つ目はアレッポで住民を閉じ込めるような包囲網は築いていない。二つ目はアサド政権とロシアは支援物資を運ぶ車列を空爆していない。三つ目はアメリカ主導の有志連合がデリゾールで60人もの政府軍の兵士を空爆で殺害したのは偶然ではなく故意である。

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シリアのおさらい

シリア情勢は複雑だと一般には言われています。確かにその通りなのですが、民衆蜂起から現在に至るまで、時系列で物事を眺めていくと、それほど道に迷うことなく、すんなりと理解できます。ただ、2011年3月から現在までのシリアでのニュースを拾い集めるとなると、膨大な労力と時間が費やされます。仮に今、2016年9月、「シリアを勉強しよう!」と思った方がいるとしたら、それは大変な作業になります。2012年3月からシリア情勢を眺め続けている僕でも、何とか追いつけている状態です。息切れしてます。こんな記事を見かけたので、補足を交えて紹介したいと思います。

http://www.nytimes.com/2016/09/19/world/middleeast/syria-civil-war-bashar-al-assad-refugees-islamic-state.html

1 シリアで行われている戦争とは何か

今行われている戦争は4つの層で構成されています。まず最も核となるのがアサド政権と反体制派です。さらに両者はシリア人と外国人で組織されています。両者の基本的な意見の相違はアサド大統領を政権から追い出すか、残留させるかです。

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アサド政権の最大の支援者-国連の存在意義-

国際連合の世界での役割とは何なのか。第二次世界大戦の反省を踏まえて、国際連盟から国際連合へと形を変えて、国際平和を願い設立された組織。手元にある細谷雄一氏の「歴史認識とは何か」を参照にすれば、国連憲章第七章第三十九条において、「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第四十一条及び第四十二条に従っていかなる措置をとるかを決定する」とあります。そして、第四十二条では「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる」と書かれており、軍事的な制裁も可能です。ただし、国際連合の常任理事国には拒否権という便利なツールがあり、実際に発動することは困難です。

そして時間の経過と共に、シリアでは国連の存在などまったく無視され、次から次へと様々な国が軍事介入に乗り出しています。トルコも先週から自由シリア軍と共闘して、ジャラブロス制圧、さらにイスラム国とは名ばかりに、クルド人撃退のためマンビジを奪還するとかしないとか、そんな情報まで飛び交っています。

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最も成功を収めている者たち-クルド人の圧倒的な存在感-

マンビジが人民防衛隊(YPG)を主体としたシリア民主軍(SDF)によって解放されました。包囲された町で徹底抗戦を誓ったイスラム国は皆殺しにされたのでしょうか。それとも降伏したのでしょうか。映像をいくつか見ているのですが、陥落したマンビジの市内は戦闘の傷跡は生々しいですが、イスラム国の姿かたちは映像にはあまり出てきません。僕が訪れたコバニは戦闘が終結して2カ月が経過したにもかかわらず、ミイラ化したイスラム国の遺体が町中に数多く野ざらしにされていました。

https://www.theguardian.com/world/2016/aug/19/isis-civilians-syria-manbij-human-shield

昨日、金曜日にSDFが公開した写真です。車両が点在しており、周囲には無数の人影が見えます。イスラム国の戦闘員ですが、SDFの許可を得て、堂々と撤退しています。なぜSDFは許可を与えたのか。それは車両には戦闘員の他に一般市民も紛れています。イスラム国は住民を人間の盾、人質にして、マンビジからの安全な退路を確保したようです。

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アレッポとマンビジ

ここ最近のシリアでの大きな戦闘は二つあると思います。アレッポとマンビジです。2015年4月、コバニに訪れた際に、何人かの住民から「家族がマンビジでダーイシュに捕えられている」と聞きました。今回の作戦で彼らの家族は無事に解放されたのか気になります。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-36995759

マンビジはシリア北部の交通の要衝です。2年以上、イスラム国の強力な支配下に置かれていました。それが今回、クルド人(YPG、YPJ)主体のSDF(The Syria Democratic Forces )によってイスラム国から奪還されました。アメリカ率いる有志連合の空爆の援護を受けて、マンビジを包囲、イスラム国への投降を呼びかけたが拒絶、市街戦に突入し、先週の金曜から土曜、8割以上がSDFの支配下に置かれました。

http://www.kurdistan24.net/en/news/0b76a923-38d2-4292-b826-428235fbf911/Kurdish-led-forces-completely-liberate-Manbij–Syrian-Observatory

5月31日から開始されたマンビジ解放作戦は多くの死傷者を出しました。シリア人権監視団の報告によれば、432人の市民、そのうち104人が10歳以下の子供、54人の女性が亡くなりました。ただ、米軍主体の有志連合の空爆で、203人の市民、そのうち52人の子供と18人の女性が亡くなっています。半分程度が誤爆による死者になります。

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アルカイダを育てた肥沃な大地-ヌスラ戦線-

Charles Listerからのシリアの分析記事になります。たまに批判されたり、誤りを指摘されたりしていますが、内戦に陥ったシリアを継続的に分析されている一人かと思います。僕も学ばせていただいています。

http://www.thedailybeast.com/articles/2016/07/06/al-qaeda-reaps-rewards-of-u-s-policy-failures-on-syria.html

戦争と外交とは密接な関係にあります。しかし、一方でシリアの現状を見れば、もはや話し合いから有意義な結果を導き出すこと、ましてや解決など望めません。アサド政権は敵対勢力を嘲るか殺戮すること以外には政治的な解決など考えていません。一方で、彼を支持する側の人間に対しては、彼の身の安全を確保するために命を危険にさらしてでも防衛させます。

にもかかわらず、アサド政権の生存に大きな利益を施しているのは、アサド自身でもなく、ロシアでもイランでもヒズボラでも、さらにイスラム国でもなく、実はアルカイダなのです。5年の歳月が流れ、政略的な硬直状態に陥り、過激的な思想が徐々に表明化していく中で、シリア内戦の火種を沈静化しようとする欧米諸国の失策からアルカイダは利益を得ていました。アルカイダとはアルカイダ系のヌスラ戦線を示します。ヌスラ戦線は今年に入り、3000人以上のシリア人の戦闘員を獲得しました。 続きを読む

パルミラ攻防戦-追加-

ttp://www.afpbb.com/articles/-/3082532

パルミラの遺跡はそれほど破壊されていない。そう報道されていましたが、AFPから配信された過去と現在の比較写真を見ると、重要な遺跡がいくつも破壊されています。何でこんなことするかなーと悲しい気持ちになります。

http://www.independent.co.uk/voices/im-from-palmyra-and-i-can-tell-you-after-what-ive-seen-that-the-assad-regime-is-no-better-than-isis-a6961681.html

私の名前はMohamed Alkhateb。パルミラで生まれ育った。ホムスの大学に通っている最中に民衆蜂起が起きた。私は故郷に帰らなければならないと思った。私と私の友人は「Palmyra Coordination」を設立して、自由を求める民衆の平和的デモを導き、互いの協力体制を助長した。しかし、治安部隊が市内に入り込み、デモは何千と膨れ上がり、加熱した民衆を我々の手ではどうすることもできなかった。そしてデモに参加した民衆の多数が殺害された。 続きを読む